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信号調節回路の組み立てと調整 [歪率計]

シールドも兼ねて信号の出力部と入力部を分けて、それぞれをアルミボックスに入れて配線した。ケースが小さ過ぎて配線が苦しいのと、入出力端子の位置や数に制約が・・・いや、はっきり言って端子の配置を間違えている。性能上はあまり関係ないのでこのまま進め、うまく動いたら直すことにしよう。
信号源調節部ボックス測定信号調節部ボックス

出来上がったら配線を再確認してから電源を投入。基板裏のハンダ付け忘れでゲインが切り替わらなかったり、電源のプラスマイナスを間違えてオペアンプが過熱したりしたが、修正してとりあえず動く状態になった。
Audio DeckでWAVEの再生ボリュームとライン入力の録音ボリュームを最大にしてテスト信号を出力。歪率測定ソフトも起動しておく。

信号出力部の校正
アッテネータを1/1にセットして、出力端子にデジタルマルチメータを接続。読みが1VrmsになるようVR1(左チャンネル)とVR3(右チャンネル)を調整する。アッテネータを1/2、1/4・・・と切り替えて、信号レベルが500mV、250mV・・・と半分ずつになっていくことを確認。実際理論値とかなり正確に一致したので一安心。

信号入力部の校正
信号出力部の1Vrms信号を接続して、アッテネータを1/1、U2ゲインを1にセットする。歪率測定ソフトで波形とRMS値を見ながらVR2とVR3を調節する。最大入力レベルギリギリだと波形が歪んだときにクリップする可能性があるのでレベルを少し下げておく。RMSで0.7(1%マージン)あたりが妥当だろう。今後は読んだRMS値を1.4286倍すればVrmsに換算できる。

VR1~4の回転方向と信号の増減が逆になっていたので、これも後の修正候補。

システム性能の確認
直結状態でシステムとしての歪率を測ってみた。アッテネータとゲインをいくつか組み合わせた結果がこれ。歪率計の画面は、1/1-1/1-1のときと1/128-1/1-128のとき。後者で25kHz付近にあるのは5Vのスイッチングノイズと思われる。
システム歪率表システム歪率001システム歪率128

最初に直結で測ったときが0.004%(出力最大、入力で調整)と0.009%(入力最大、出力で調整)だったので、0.007%はまずまず良いデータと言える。アンプの出力電圧が低いときにU2ゲインを16倍に上げても、0.04%くらいまでは測れる可能性がある。
ただし、配線の引き回しやケースのフタの有無、PCの負荷によっても値はけっこう変わるので、ちゃんと組み上げてからもう一度測定したほうが良さそうだ。


信号調節全体の回路図 [歪率計]

設計に従って全体の回路図を描いてみた。まだちゃんと動くかどうかわからない。
歪率計回路図
VR1~4はバーンズの25回転サーメットトリマー。昔は高価だった気がするのだが、今や100円以下で買える。
アッテネータのラダー抵抗は全て10kΩ1%の金属皮膜。2Rも10kを2本シリーズにして使うことにしよう。100本まとめて買ったほうが安い。
オペアンプはLME49860NA。THD+Nが0.00003%、ノイズ2.7nV/√Hzと入手が容易な中ではダントツ。バイポーラ入力なのでバイアス電流によるオフセット電圧に気を配る。バイアス電流は10nAで、アッテネータがつながっていればバイアス抵抗値は10kΩ以下だから、ユニティゲインのバッファでは無視できる。ゲイン128倍のときは12mV以上出る計算なので、出力に無極性の電解コンデンサを入れた。オペアンプ入力の1MΩは入力がオープンになったときの保険。

サウンドカードへの入出力はステレオミニジャック。被測定アンプへの入出力端子はダミーロードを接続できるようジョンソン端子を使う。

電源はスイッチングノイズを嫌ってアナログ式。トランス式ACアダプタを2個使おうかと考えたが、もはや15Vなんて電圧は入手困難なので、トランスを買ってACアダプタを自作した。信号調節回路の近くまで引っ張ってから3端子レギュレータで安定化する。
ACアダプタ

リレー駆動用の5VはRCサーボの電源にも使い、そこそこ容量が要るのでスイッチング式ACアダプタにする。スイッチングノイズが回り込まないか少し心配だ。


信号調節回路の検討(その2) [歪率計]

サウンド出力レベルの調整(続き)
電子ボリュームを使えば減衰量を制御できる。しかし途中にいろいろ電子回路が入ると何を測ってるのかわからなくなるので、できればパッシブな抵抗だけで構成したい。デジタル制御するにはR-2R抵抗ラダーが便利だ。レベルを1/1000(実際は1/1024)刻みで変えるには10ビットあればいいが、リレーがたくさん並ぶのは大げさだしPCから制御するのもなかなか面倒だ。制御ソフトができるまではテストすらできないし。

R-2R抵抗ラダーの1/(2^n)出力をロータリースイッチで選択し、各位置でサウンド出力レベルを1/1~1/2の範囲で(11ステップ)調整すれば、低いレンジとそこそこのステップ分解能が得られそうだ。ロータリースイッチなら手でも回せるし、PCからはラジコン用のRCサーボで回しても精度は確保できる。最初からあまりお金をかけたくないので、もっと細かく調節したくなったらまた考えよう。

ロータリースイッチは11接点(1/1,1/2,1/4...1/512,1/1024)あればいい。高級オーディオ用のバカ高いスイッチは手が出ないので、安いALPS製(これも息の長い製品だ)を使う。これは1ステップ30度なので、RCサーボで回せる角度(約180度)以内にするために6接点のものを2個組み合わせることにする。2回路あるから左右チャンネル同時に切り替えることができる。
ロータリースイッチ
アンプの入力抵抗によって減衰量が変わるのを防ぐため、バッファをかますことにした。これには超ローノイズかつ超低ひずみのオペアンプを選定することにしよう。回路ゲイン1で、PCサウンド出力最大時に被測定アンプに1Vrms印加されるよう、初段に半固定抵抗を入れて校正する。サウンドカードが変わったらここだけ再調整すればいい。

サウンド入力レベルの調整
サウンド入力の前で信号レベルを調節する部分は、6接点(1/1,1/2,1/4...1/32)のロータリースイッチに、ゲインを1倍、16倍、128倍に切り替えられるアンプを組み合わせる。1/32~128倍まで2倍刻みでしか調節できないが、それでも取り込んだ波形の振幅をフルスケールから1/2の間に収めることができるはずだ。その間の歪率の変化は0.001%程度で、出力を可変したときとほぼ変わらない。回路ゲイン1で、測定信号1VrmsのときPCサウンドの最大入力レベルになるよう、最初に半固定抵抗を入れて校正する。サウンドカードが変わったらここだけ再調整すればいい。

レベルダイアグラム詳細


信号調節回路の検討(その1) [歪率計]

THD+Nの値は、サウンド出力と入力のレベルによって変わるので、それらはあまり変えたくない。とはいえ、被測定アンプの入出力レベルは様々だ。測定器として設計するなら、アンプへの入力レベルを調節することと、アンプ出力をサウンド入力レベルに合わせることが必要だ。
サウンドカードの違いを吸収することと、調整の簡素化と再現性を良くするために、再生ボリュームと録音ボリュームが最大の位置で正規化し、そこから既知の量だけレベルを変化させることにする。

外付けの調節回路と、それぞれの箇所の信号レベルを以下のように割り振ってみた。
レベルダイアグラム
出力レベル対ひずみ率グラフを描くにはある程度の範囲で変化させたいので、被測定アンプの入力レベルは数mV~1V、出力レベルは数10mV~30Vを想定した。30Vあれば8Ω負荷で110Wのパワーアンプもカバーできる。

サウンド出力レベルの調整
LabVIEWのサウンドVIで出力音量の調整ができるのだが、音量値(0~100)に対する実際の信号レベルのリニアリティと分解能が良くない。音量値を100から80まで変化させると11ステップ程度でレベルが1/2になる(SE-200PCIの場合)。
LabVIEW再生音量 対 減衰率
このときの歪率の変化は0.001%程度(直結の場合)だ。1/2までは最高位のビットが変化しない範囲だから影響が少ないのかもしれない。とにかく1/1~1/2レベルの範囲なら音量調整VIが使えそうだ。リニアリティの問題は音量値と減衰量のテーブルを持つことで対処する。しかしアンプの入力としてはもっと小さなレベルまで下げられないとダメだ。

自動測定するには、ソフトウェアが被測定アンプの入出力端における実際の信号レベルを知る必要がある。そのために測定値をPCに取り込めるミリバルを用意するのでは高価すぎる。アッテネータの減衰量をソフトウェアから制御できれば、信号レベルを予測できるが・・・


ひずみ率測定ソフトの試作 [歪率計]

LabVIEWには「高調波歪み解析」というVIがある。正弦波に近い波形データを与えると、ハニング窓、フーリエ変換、基本周波数抽出、高調波検索、RMS計算を行って、THDを計算してくれる。
THD+Nを求めるには「SINADアナライザ」を使う。こちらは基本周波数を抽出したら振幅と位相を合わせた理想正弦波データを生成して元のデータから引き算し、THD+N成分とする。これらをContinuous Sound Input.viに組み込んで歪率計を作ってみた。

サウンド出力と入力を直結して、1kHzの正弦波を出力し、入力波形がクリップしないようにAudio Deckでボリュームを絞ってTHD+Nを測った。入力ボリュームを最大にして、出力ボリュームを絞るとTHD+Nで0.009%前後になった。
PC歪(入力ボリューム最大)
逆に出力ボリュームを最大にして、入力ボリュームを絞ると0.004%前後のTHD+Nが得られる。こちらのように入力側で絞ったほうがノイズレベルが低く、成績が良い。
PC歪(出力ボリューム最大)

サンプル数の違いで成績が変わるかどうか実験した結果がこれ。スペクトルグラフの表示範囲を500Hz~2500Hzにして肩特性を見ている。32768ポイントは2のべき乗、48000ポイントはサンプリングレート96kHz(96000)の1/2。おまけで50000ポイント。FFTスペクトルの形は違うがTHD+Nの値に有意な差は無い。
PC歪(32768ポイント)PC歪(48000ポイント)PC歪(50000ポイント)

もう少し突っ込んで調べるために、歪波形データを計算で作成して解析VIに与えてみた。基本波と高調波を生成して加算する。ただし倍精度浮動小数点(64ビット)表記だと精度が高すぎるので、分解能を16ビット相当に落としてある。基本波の周波数1kHzで振幅1V。高調波の周波数2kHzで振幅1mVにすると、偶数次高調波の歪成分が0.1%含まれた歪波形になるはずである。サンプル数を変えたり、周波数の組み合わせを100Hzと200HzにしてもTHDおよびTHD+Nに変化はない。
歪解析シミュレーション(1kHz_4096)歪解析シミュレーション(1kHz_4800)歪解析シミュレーション(100Hz_4096)歪解析シミュレーション(100Hz_4800)

FFTスペクトルの周波数分解能は、元波形の時間幅(サンプル数/サンプリングレート)の逆数だから、サンプル数が変われば周波数分解能も変わる。すると基本波または高調波の周波数によっては分解能の整数倍にあてはまらず成分のレベルが不正確になる。それらが積算されてTHDの値が小さくなる傾向がある。この歪解析VIでは、基本波および高調波をサーチする際、SinX/X補間を用いて振幅の補正を行っているため、条件によってTHDが左右されることが少ない。

また実際のTHD+Nでは、周波数帯域が広いほどノイズの合計が多くなる。解析VIではサンプリングレートの1/2で帯域を切っているため、サンプリングレートが低いほうがTHD+Nの値が小さくなる傾向がある。サンプリングレートは96KHzに固定し、ノイズ帯域48kHzで統一する必要がある。


PCオーディオの入出力を調べる [歪率計]

まずはPCオーディオの特徴を知らねばなるまい。手持ちのサウンドカードはオンキョーのSE-200PCI。こいつのアナログ入出力を調べてみた。最高サンプリングレートのスペックは再生時最高192kHz、録音時最高96kHz(ともに分解能24ビット)とある。再生と録音は同時に動かすことができる。

サウンドカードのライン出力とライン入力を引っ張り出して直結し、信号のモニタ用にオシロスコープとデジタルマルチメータをぶら下げた。HP972Aマルチメータは20kHzまでのRMSが読み取れる。
Audio Deck(SE-200PCI付属の設定画面)を開き、再生はWAVEのボリュームを最大に、録音はライン入力を選んでボリュームを最大にする。ちなみにこのカードのマスターボリュームはアナログ入出力では無視される。
サウンドパネル再生サウンドパネル録音

信号出力ソフトには、LabVIEW 2011のサンプルVI(Generate Sound.vi)に少し手を加えて使用する。波形の種類と周波数、データポイント数、サンプルレート、チャンネル数、ビット数が選べる。振幅は倍精度浮動小数点表現で±1に正規化して書き込めば、内部でビット数相応のフルスケールに換算してくれるようだ。最終的にはDirectXのAPIを叩いているっぽい。
サウンド生成VIパネル

入力波形の取り込みと表示にはContinuous Sound Input.viを使う。こちらも独立してサンプルレートとビット数、一回に取り込むデータポイント数が選べる。波形データは指定ビットのフルスケールが±1に正規化されて取り込まれるようだ。
サウンド入力VIパネル

192kHz/24ビットで500Hzの正弦波を出力すると2.22Vrms(6.28Vp-p)の振幅が出る。出力周波数を上げていくと60kHzでもほぼ同程度の振幅が出る。70kHzにすると波形が不安定になるので60kHzが上限と判断した。ちなみに96kHz/24ビットのときは45kHzで-2dB。46kHzでは波形が不安定なので、上限は45kHzとなる。

このとき入力波形は盛大にクリップしている。これが±1に合うよう出力信号のボリュームを調整したときのマルチメータの読みは約354mVrms(1Vp-p)だった。これが最大入力レベルのようだ。
ところで実験中、サンプルレートによっては取り込んだ波形が崩れる(正弦波にノイズのようなギザギザが乗る)現象が発生した。入力と出力でサンプルレートの組み合わせをいくつか試したところ、出力を96kHz/24ビットで開始した後、入力を96kHz/24ビットで開始するのがいちばん安定するようだ。そうしないと入力側でおかしな現象が起こりやすい。

試しにマザーボードのオンボードサウンドも測ってみた。RealtekのALC882チップを使ったAC97だ。出力が192kHz/24ビットのボリューム最大で1.34Vrms(3.79mVp-p)@500Hz。周波数は21kHzくらいまでが実用範囲(信号レベルが下がり、22kHz以上では波形が乱れる)だからSE-200PCIよりアナログ帯域が狭い。入力は96kHz/24ビットで、約360mVrms(735mVp-p)が最大入力レベルだった。

PCのサウンドシステムによって違いがあるので、ある程度の調整幅が必要だ。とりあえず最大出力1Vrms以上、最大入力レベル1Vrms未満であることを前提に、設計を行うことにする。


歪率の測定器を作ろうと思い立つ [歪率計]

アンプの測定
前回の記事は2010年11月9日だから、まるまる1年10ヶ月ぶりだが、自分では特に驚いてはいない。何かネタがあって何ヶ月か集中してやったと思うと、その後は年単位で放っておき、また気が向くと始める、というのはいつものパターン。だから忘れた頃に古い話題を引っ張り出してきたりする。このブログの趣旨にバッチリ合っている(苦笑)。

さて、今度は自動歪率計を作ろうと思い立った。

アンプを作ると、最低限の特性を測りたくなる。デジタルテスタとオシロスコープは持っているので、DCドリフトや、発振の有無などは見ることができる。でもほしいのはその先。
周波数特性を測るには広い帯域に渡るテスト信号を出せる信号源が必要だ。パルス応答を見るにはきれいな矩形波を出せる信号源が要る。PC音源では少し役不足だ。最初からリンギングがあったりする。

あとは歪率(ひずみりつ?、わいりつ?)が測れれば一応格好がつく。アンプは入力された信号の振幅だけを変化させるのが役目だが、出力には必ず入力した信号成分以外の成分が混じって波の形が「歪む」。
多くは信号源の整数倍の周波数(高調波)成分で、すべての成分の2乗平均が全高調波歪(THD:Total Harmonic Distortion)、全体に対するTHDの割合が全高調波歪率(THDレシオ)のはずだが、慣例として全高調波歪率=THDと表現しているようだ。アンプ入出力間の非直線性が反映され、最大出力も歪率10%くらいのときをもって言うことが多い。

基本的な測定方法
低ひずみの正弦波信号をアンプに入れ、出力をノッチフィルタに通して、信号源の周波数(基本波)成分を除去し、残りの信号全体の実効値をミリバルで測定して、基本波レベルとの比を取る。
フィルタ式歪率測定ブロック図
ひずみ量が少なければ(10%以下)フィルタ前の全体信号を基本波レベルとしても大差ない。フィルタ後の信号には高調波成分に加えてノイズも含まれるので、THD+Nと表現される。信号レベルが小さい領域では相対的にノイズが目立つのでTHD+Nの値は悪くなる。

どれだけ小さいひずみ率まで測れるかは、信号源のひずみの少なさと、ノッチフィルタの基本波除去能力がキーになる。フィルタをたくさん用意するのは大変なので、測定周波数はスポットになる(400Hzと1kHzなど)。フィルタの微調整は手動または自動で行う。

もっと高級な測定器になると、広帯域の信号源を持ち、出力信号を周波数分析して結果を出すことができるようだ。フィルタ式のでも数10万円、高級機は100万円をはるかに越えるので、とてもじゃないが手が出せない。
測定信号をA/D変換して取り込み、FFTをかけて周波数分析する方式なら、PCのサウンド入力でも実現できる。信号源は計算で作った正弦波をサウンド出力すればいい。サンプリング周波数や分解能、信号レベルなどに制限があるが、注意して設計すればそこそのものはできそうだ。

ネットでググると偉大な先人たちが見つかる。
フィルタ式の追及:http://www.geocities.jp/cxb00463/audio/DIST/Dist_index.html
フリーのすごいソフト:http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/
プロの方でしょうか:http://www.op316.com/tubes/tips/b550.htm

せっかく作るなら、周波数の切り替えやレベルの調整も自動で行えるようにしたいなあ。


出力段バッファ付きヘッドホンアンプ(その4)電源コンデンサの検討 [ヘッドホンアンプ]

三端子レギュレータの出力端子に大容量のコンデンサを付ければ、それがバイパスになってインピーダンスが下がる。出力に1000μF(通常品)を付けたところ、1kHzより上から可聴帯域ではほぼ0.2Ω以下を保持した。アンプに使った安い低ESRタイプにすると、もう少し低くなった。

uA7812 出力インピーダンス

さらに周波数が上がれば電解コンデンサのインダクタンス成分などでインピーダンスが上がってくるだろうから、心配なら周波数特性の良いフィルムコンデンサをパラレルに付けてやればいい。それでも数100kHzより上の話だから効果のほどはよくわからないし、電源の配線なども影響しそうな領域だから、あまり神経質になっても仕方がない。
こんなことができるのも三端子レギュレータならでは。おそらく内部で位相を進める補償を行っていて、出力に大容量や低ESRのコンデンサがつながれても大丈夫なように設計されているのだろう。

信号周波数がよほど低いかDCでない限り、出力端のコンデンサこそがアンプのエネルギー源になる。とはいえ、むやみに大容量をつけると電源をオンしたときの突入電流がハンパじゃなくなる。コンデンサをDCで使うと満充電されるまではショートに近いからだ。電源ONのときの振る舞いを調べてみた。回路は以下のとおりで、測定にはデジタルオシロスコープを使った。瞬時の波形が取れるので便利だ。
三端子レギュレータ測定回路(10μF)

μA7812突入電流(10μF)

CH1(オレンジの線)が測定点1で入力電圧。CH2(水色の線)が測定点2で出力電圧だ。10μFのときはほぼ50μsの間に充電は完了する。その後ACアダプタのほうの電流供給が追いつかないせいか電圧がバタバタするが、それも150μs内には安定する。

1000μFを追加すると安定するまでの時間はぐっと延びて、その間は直線的に電圧が上がっていく。
三端子レギュレータ測定回路(1000μF)

μA7812突入電流(1000μF)

ACアダプタが負けて傾きが鈍るまでの間で見ると、8V変化するのに3.8msかかっている。コンデンサの充電電流は、i=C(dV/dt)で表わされるから、1000μ(8/3.8m)=2.11Aの定電流と推測できる。これは完全に三端子レギュレータの過電流保護回路が働いているとみていい。10μFのほうもよく見ると直線部分があるのでここでも保護回路が働いているのだろう。これをどう判断しよう?

過渡電流に負けないACアダプタを使ったとしても保護回路が働いているのは6msくらいだ。短時間でのジャンクション温度の上昇を計算するには過渡熱抵抗を知る必要があるものの、スペックシートには書いてない。入出力間の電位差が5Vと仮定すると、電流2Aで約10W消費される。もしパルス幅6msのときの過渡熱抵抗が6℃/Wだとすると周囲温度25℃+10W×6℃/W=85℃で、最高ジャンクション温度150℃にはまだ余裕がある。6℃/Wの根拠はないわけではないがかなりあてずっぽうな値。このくらいなら壊れることはないだろうけど、電源ONのたびに大きなストレスがかかるのは間違いない。

突入電流を緩和するには電流制限抵抗を入れる手がある。4.7Ω(AT-HA2の改造で外したヤツ)を入れて測ってみたのが下図。直線部分がないので保護回路は作動していないと思われる。

三端子レギュレータ測定回路(1000μF+4.7Ω)

μA7812突入電流(10μF+4.7Ω)

電流制限抵抗を入れるとDC領域のインピーダンスが上がるのでレギュレータの意味が薄れる(AT-HA2では2.2Ωだった)。コンデンサの充電が終わった頃を見計らって抵抗を短絡してやるのがベストだけど、やりすぎの気もするし、まあ安定化電源の先にこれ以上大きな容量をつけてもあまり意味はないだろう。
三端子レギュレータ(突入電流回避)

ちなみに大きな電流を必要とするパワーアンプでは、雑音やリップルを嫌う電圧増幅段だけ安定化電源を使い、電力増幅段用は非安定化のまま巨大な電解コンデンサを抱かせてある。やたらとコンデンサばかり大きくして、トランスを焼損したり、スイッチを入れるたびに照明が一瞬暗くなったりするのは設計としてどうかと思うんだ。


出力段バッファ付きヘッドホンアンプ(その3)電源の検討 [ヘッドホンアンプ]

ケースに組み込むには、電源をどうするか考えなくてはならない。AT-HA2の改造ではアンプ部分以外は全て流用したので楽だったが、全て自作するとなると、電源や入出力端子、ボリュームやスイッチなどを備える必要がある。それらをケースに組み込むのもけっこう面倒だったりする。

室内でしか使わないから、電池や充電池は候補から外す。いちばん簡単なのは、スイッチングタイプのACアダプタだ。出力電圧が安定化されているので、そのままアンプに供給すればいい。ただしスイッチングノイズが音質に悪影響を及ぼすという意見もある。実験のときにはスイッチング電源を使ったが、少なくともアンプ出力にスイッチングノイズらしきものは観測できなかった。

トランス式のACアダプタは、電圧が高めに出る。定格電流を流したときの電圧で規定されているらしいが、たいていそれよりも高いようだ。おそらくAC100Vラインが85Vくらいまで落ちても大丈夫なようになっているのだろう。手元にあった6V,1200mAのアダプタをテスタで測ったら無負荷で10.1V出ている。アンプ基板につないでも9.4V。16Ω負荷で最大出力まで振っても9.2Vまでしか下がらなかった。とはいえ16Ωに対して1.4Vrmsくらいだから大した電流は流れない。定格電流に余裕があれば電圧変動は小さい。

ちなみにリップルによるハム音は全く聞こえない。デジタルオシロスコープで電源リップルとヘッドホン出力を観測してみた。ACラインでトリガをかけて平均化してもCH2のリップル波形に同期したノイズはCH1の出力に表れていない。
電源リップルとアンプ出力

アンプ基板の電源コンデンサに16V耐圧を使ってしまったのであまり高い電圧はかけられない。9V,500mAくらいのアダプタを入手すればそのまま使えそうな気がする。

トランス式ACアダプタの出力をドロッパタイプのレギュレータで安定化すると高品質な電源が得られる。簡単なのは三端子レギュレータで、AT-HA2もその方式だった。オーディオ回路の電源としてはあまり評判が良くないが、ちゃんと使えば発振することはないし、過熱や過電流に対する安全回路も装わっている上に安い。下手にディスクリートで組むより良いと思うのだがなあ。ノイズが多いというが数10μVなんてオーダーはアンプからも出るし。

出力インピーダンスが低くない?
確かに出力の電解コンデンサが10μFくらいだと、1kHzあたりからインピーダンスが上昇し、20kHzあたりでまた下がり始める。μA7812で実験してみたら、100Hzで0.1Ωだったのが10kHzで1.4Ωまで上昇し、15kHzの1.6Ωを境にまた下がり始めた。(グラフの青い線)

uA7812 出力インピーダンス

三端子レギュレータは入力に基準電圧を接続した負帰還アンプだ。この基準電圧がIC内部の接合で作られるからノイズ源になるらしい。
シリーズレギュレータの構造 
オープンループゲインが十分ありフィードバック量が稼げる帯域では、入力電圧の変動を強力に押さえ込め、出力インピーダンスが下げられる。周波数が上がるとアンプの制御能力が低下してインピーダンスが上昇する。それがだいたい1kHzなのだろう。電源トランスをすり抜けてきたノイズや、整流後のリップルを除去することに注力しているのがわかる。
もっと広帯域のオペアンプなどを誤差増幅器に使えば、より広い帯域にわたってインピーダンスを下げられるだろうが、アンプの出力にコンデンサがぶらさがるわけだから、位相補正をきっちりやらないと発振する。

ちなみにインピーダンス測定回路は下図。電源電圧をサイン波で駆動して、AC成分のみをオシロスコープで測って電源側の直列抵抗を計算(510×⊿Vs/⊿VL)した。インピーダンスが低いと⊿Vsが小さいのでオシロスコープの感度が足りないので、オペアンプで増幅してやったほうがよかったかもしれない。またサイン波をPCのオーディオカードで生成しているので20kHzより高い周波数が出せない。ファンクションジェネレータを作らないといけないな。
電源インピーダンス測定回路


出力段バッファ付きヘッドホンアンプ(その2)音出し [ヘッドホンアンプ]

ケースに入れるには電源を検討しなければならないので、とりあえずむき出しのまま鳴らしてみることにした。電源は手持ちのスイッチングレギュレータを使った。入力端子の前に50kΩのボリュームを付けてPCのサウンド出力につなぐ。シールドケースに入れないので、アルミ板を置いてGNDに接続し、上にクリアファイルを敷いて基板を載せる。多少はノイズ抑制に効果があるだろう。

HPアンプ実験風景(1)

出力にダミー抵抗をつないで電源を入れ、オシロスコープで観測して発振していないようなら、5.6Ωの両端が0.168VになるようVR1を調整する。しばらくしてトランジスタが温まったら電圧を確認して、倍以上ずれていないようならたぶん熱的には大丈夫だから、もう一度VR1を調整して完了。各部分の電圧をテスタで測るとだいたい設計どおりに動いているようだ。
16Ω負荷でひずみ率を測ってみた。入力のボリュームでレベルを調整したので、サウンドカードの入出力レベルに伴うクセは回避できていると思う。

NJM2114+DrlBuf歪率(精密)

しばらくあれこれやってみたが問題なさそうなので、ヘッドホンをつないで音楽を聴いてみる。・・・けっこう良いではないか。ボーカルがはっきりしていて中高音がきらびやかな感じがする。ドラムベースもしっかり出ている。ノイズはほとんど気にならない。スイッチング電源のノイズが回りこんでくることもなさそうだ。これ以上は音源の質のほうが問題になりそうだ。

基板のパターンは下図のとおり。なるべくジャンパは使わないようにしてある。縦挿ししていた抵抗を横に直したので実物の写真とは少し違う。

Darlington Buffer PCB


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